岸壁に今にも崩れそうな丸太小屋が建っている。中をのぞいて見ると五右衛門風呂と、
くどが二つ、一畳ぐらいの板張りがあり土間には何やら臭い桶が置いてある
小屋の外には飛び出そうな眼球をした雑種犬を三匹飼っている
そこにはその日暮らしを強いられたじいさんが住んでいた。
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不精髭をはやした小さな老人が西の空の夕焼けを見ながら、竹で作ったトックリの酒を
ちびちび飲み「明日は晴れじゃのう」とつぶやき
真っ白いカモメが飛んできたら釣ってきたメバルを宙に投げてやった
「可愛そうなことをしたのう」
まだ、あどけないない顔をしたちいさなカモメはメバルが海面に落ちるまでに必死になって、
ぎごちない格好しながら空中回転を繰り返し、好物のメバルを捕獲している。
それを見てカモメが何羽も飛んで来るが
じいさんは他のカモメにメバルを投げることはなかった。
「どうして?」平等にエサをやらないの・・・
しょうがないよ、あのチビは雛のときワシがボートではねて瀕死の状態にしたにもかかわらず
「よう生きのびたカモメじゃけえのう、
自立するまで面倒みてやらんと」ワシの責任じゃけえ鼻をすすり
大粒の涙をポッリポッリ流しながらまた、ちびちび酒を飲み始めた。
岸壁の下を見下ろすと、無造作にロープで岩にくくられている小さな炉舟は、
波に逆らわず上を向いたり下むいたり首ふり人形みたいにゆれて
上手に波と共存して生きているようである
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ボロ小屋のまえの石混じりの野っ原をたいぎそうに耕しているのを見かねて
「じいさん、ワシが手伝ってやるヨ、クワをかしてみんさい」
クワを持ちおもいっきり振り上げ地面をうったとたん
「ガーチン」と金属音がして刃が折れた。「安いのを買うけえよう」
もう一本のクワでまたうったら今度は石が刃の間に入り、刃が反った。
それを見かねたじいさんは「もうええわいあんたにはクワがなんぼうあっても足りんよ」
力まかせにやったらエエもんと違うヨ
荒れた土地だから優しくクワの重さのみで耕し、何年もかかって畑をつくるのよ、
そうしたら相手は自然じゃけえ、エエ土壌がでるんよ
一休みしたあと、ワシがザルでふるいをかけ石を取り除こうとしたら
「ザルで取ってもすぐなくなりゃあせんよ」目を皿のようにして
黒い石を探しても時間の無駄よ、雨がふったらまたイッパイ石がわいてくるけえのう
翌日雨が降った。本当じゃあじいさんが言ったとおり
白くなった石が地面イッパイあるじゃあないか、「なるほど」ワシが関心していたら
「わかったらはようひらわんかい、また来年種をまくときに耕して石が出てきたら
ひとつ一つ拾い出すのよ、これの繰り返しヨ」
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数日たって芋の苗を植えた。ワシは今度こそじいさんに褒められたくて
はしゃぐ気持ちを抑えながら「はよう水をやらにゃあ枯れるで」と言ったとたん。
「いらん心配せんでもエエ、おまえは自然を知らんのう昨日の晩、月が傘をかぶっとただろうが」
「なんのことやあ」
「月を中心に丸い雲の輪ができとったろうが、今から雨が降るけえ水はやらんでもエエよ」
じいさんが言ったとおり雨がふってきた。自然現象をよう見いやあ
「自然に逆らって得するものはないよ、頭、あたま、頭をつかえ
意識して自然観察して得をせにゃあ損よ」
「拾い出した石を貯めて石垣を造り少しずつ出来上がったのが段々畑に化けるのよ」
「その積み重ねが素朴でいきをしている土地に変化して、富を呼ぶのよ」
「自然の力を利用し人間の知恵を交ぜ生きることよ」
じいさんは五右衛門風呂に入り
♪♪月がでたでた〜月がでた〜月もでんようになったらこの世も終わりよヨイヨイ♪♪
また大空の星を見上げながら酒を飲んでいた
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☆
このまえの話はヨウわからんのう
いままでヘルパーさんの車で買い物や病院に連れてってもらっていたのに
10月になって全額介護保険料を支払うようになったら
ヘルパーの運転する車に乗ったらいけんらしいが本当か
ほうよ、いままで通院介護や買い物介護などで車が必要なときは
ボランテア精神で送迎していたが、その行為は
「営業妨害とかシロタク行為になるからダメ」と言っているらしいよ
☆足が脳梗塞の後遺症で麻痺して歩けんのにどうすりぁええんかいのう
「これからはバスかタクシーに乗れとよ」近所のおじさんが運転する車は
乗ってもええらしいがのう
よう知らんがヘルパーの車は事業所がからんどるからいけんらしいよ
ほいでの「ヘルパーが運転していたら介護ができんじゃろう」と言うのよ
☆そりゃそうじゃ、車を運転しながら介護してたら交通時事故のもとよ
そうよ運転している時間帯は保険請求ができんのは当たり前じゃがのう・・・
「お金がいらん」と言うのが又気にくわんらしいよ
☆隣のじいさんは、送迎加算がついてなんぼうと言っているがのう
そうよデイサービスやデイケアの施設等の送迎は有料なのよ
☆施設が有料なら在宅も有料したらいけんのんか」素人にはわからんのう
介護は在宅も施設も同じじゃあないのか
知らんよ、ワシが決めたんじゃあないけえ、在宅ケアを中心にできた介護保険じゃが
業者や施設ケアを重視させとるんじゃあないかのう
そのうち施設にも入居することができんようになるよ
☆なんのことや
法律、法律ばっかり言うて理論(書類)が通り、肝心な心が通らんのが今の政治よ
みてみいやエライ人が脱税して、「わしゃあ何も知らん」と言っているが
自然の流れが恐ろしいことを忘れているのよ
☆一人暮らしのワシは一割負担の支払う金もないからのう、
ひもじいおもいしながら昼飯を三回ぬきながらヤット700円貯めて
同じ一人暮しの友達と話ができるのが唯一の楽しみで
デイサビースを利用しているのにのう
お前の気持ちもよう分かるよ
☆困った人を奉仕の心で近所の人や事業所や学生の好意または善意で
通院乗車、買い物乗車ができるようになればエエがのう
ボランティア精神がなんとかこの世の中に通じないもんかのう
同感よ、ボランティア精神は裏も表もない素朴なものじゃが
「ボランティア」の言葉を悪用する馬鹿がおるけえのう、困ったもんよ
とうとうペイオフが実施されるのう
ワシらに関係ないが
銀行が破綻したら一千万円以上の定期預金をしているものは
預けた金額が全部もらえんそうな
一千万円とその利息は返してもらえるそうなが
後の金は返してもらえなくなるのよ
言い換えれば、貸した金が返してもらえない時代になったのよ
おかしな話じゃのう
知らんヨ、こんな話が通る世の中になったんよ
人の物を盗ってもええんかい、昔小学校の先生の教えと違うのう
嘘つきは泥棒のはじまりと習ったがのう
もう教育者も警察も税務署もいらんのう
そうヨ、強い者と嘘をつく者が勝つ世の中になったらしいよ
多くの難民をかかえている国によう似とるのう
他人の巣箱に自分の卵を産みつけしかも他人の卵まで捨てて
雛まで知らん顔してエサをもらって育つ
かっこう鳥にも、よう似てきたのう
そうヨ、こすい生き方が賞賛される世の中よ
なんとかならんかいのう
駄目じゃろうてえ、正義の味方の鞍馬天狗がおらにゃあ
じいちゃんがよう言いよった
「偽りの社会は長生きできゃあせんよ
エライ人が考える人の財布で生きていくより
自然を利用してコツコツ生きるのが一番よ
地味じゃあが長続きするのよ、派手な花より雑草になれよ」と
無責任な時代に突入したのう、
そうよスーダラブシでも歌って時間をつぶすしかないよ♪♪スイスイ♪♪と
♪♪スイスイ♪♪しかし同じ無責任でも、あの頃のは夢があったのう
おかしなことよのう
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