三軒隣に仲のいいおしどり老夫婦が住んでいた。
じいさんは器用貧乏でなんでもできた「おじいちゃん竹とんぼの作り方教えて」
「ヨシャヨシャ作業場に行って、よお切れそうなナイフを持ってきんさい」
その言葉を聞いて、かあちゃんが怒った
なんでや
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「ナイフで指を切ったらどうするのやめて」
一本や二本切り落としてもたいしたことじやないヨ、指は10本あるけえ心配するな
切ったら痛いけえ切り落とすまでいかんヨ、そのうち上手になるよ
オイぼうず自分で作ってみい、ナイフは体に向かって使うもんじゃあないけえのう
外に向かって切るもんでえ
ナイフの使い方も知らんようでは鉛筆も削れんけえ馬鹿になるバッカリヨ
ナイフの刃は上に向けるもんじゃあない、攻撃的な心境になるけえのう
それに人に渡すときは刃の方は自分が持って、柄のほうを渡すもんでえ
竹は万能選手じゃけえよう覚えておけヨ
川にいけばフナつり竿・ミミズをいれてウナギを捕まえるもじ・ウナギ籠・ささの葉でささ舟、ささ笛
海に行けばカキいかだ・船体破壊防止の防護竹
竹の子は食糧品・竹の皮はむすびの入れ物・こいのぼりの掲揚棒
節から節をきって穴をあけて栓をして
水を入れたら水筒・酒を入れたらトックリ・箸を入れたらクジ箱・お金を入れたら貯金箱
キヤンプのとき飯盒のかわりの釜・コップ・竹の根はムチ・杖・垣根
健康につかう竹踏み・耳掻き・物干し竿・空飛ぶ魔法の竹ぼうき・灰皿
ものさし・計算尺・茶せん・コップ・一輪ざしの花瓶・メジロの鳥かご・はしご
貧乏侍の竹光・竹刀・尺八・やぶれ傘・五右衛門風呂の火吹き・注目されている竹木炭
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夏の暑いときの扇子・うちわ・七夕の竹竹を真半分に割ってソーメン流しの器
竹すだれ・墓の灯篭・油絵のヘラ・耳掻き・つまようじ・焼き鳥やダンゴの串
竹ひごで紙飛行機・竹ひごの両サイドにドングリを差込で出来たのがやじろべよ・おまけに凧
竹馬・紙てっぽう・水鉄砲・竹トンボまだまだあるでえ
秋になって竹の先を割って柿とり器・横笛・縦笛・のぼり・みこしの支え棒
祭りの吹き火・木炭と硫黄まぜた黒色火薬に鉄粉を竹の筒にこめて作られた吹火が
夜空に向かって吹き上げる炎はシューシューと音をたて鮮やかなオレンジ色に変化した世界は
何もかも忘れ幻想の中に生きているようで、妖精になったような気分になるのよ
氏子や見物人の全員が心から喜ぶ祭りが一番よ
正月の門松・あぶってソリをつくり
5メートルぐらいの長さの竹を数十本を重ね巨大な円錐柱をつくり
火を付けたら空まで届きそうな炎や大きな爆竹の音で
もやもやした気分が爽快にかわり
竹の先につけ書初めの半紙が天まで上がったら字がうまくなるし
トンド火にあたればその年は病にかからないし
残り火でカガミモチを竹に串さしにして焼いた餅を食べたらエラクなるし
おまけに竹かんで沸かした酒は竹のあぶらがのって甘く美味しいのよ
だから新年の抱負をツマミにして朝まで飲み続けるのよ
電球のフイラメント・糸電話の受話器・竹す
土かべの壁の芯・土壁のこし・水道管・排水管・つぶしたら蛇籠
箸、・しゃもじ等台所用品「身近なものは全部作れるのよ」
最後はザルの作り方まで教わった
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昔はのう
竹やり・弓矢で空とぶ飛行機に向かって戦ったもんよ、たいもせんのにのう
地震がおきたら竹やぶに逃げたら安全地帯ヨ、山火事の時も防火帯として役立ち延焼を防いでいるのヨ
竹は日本の宝よ杉・松とちごうて一年で成長するけえのう
こんな真似すなよ
こっそり火の中に竹を入れてみい、突然竹が爆発し焚き火をかこんでいる連中がびっくりするけぇ
「なんで爆発したか」わかるか、「空気が膨張して竹が破裂したのよ」ここが大切なのよ
「次からつぎに破裂するのは節があるけえよ」これが分かったら一人前よ
じいちゃんがよう言いよった
竹の子ように小さいときはなんでも食ってスクスク伸びて大きくなれ
大きくなったら竹のように頭を下げ、そうすれば
雪の積雪の重みで折れそうになっても芯がしっかりしとる竹じゃけえ
バネのようになって跳ね返すけえ折れんのヨ
と同じことで、いろいろな苦難にあっても耐える力があるけえ跳ね返し
人を恨むことなど考えもせず豊かな心が自然に身につくのよ
ようするに泳ぐことが出来る人は、海や川など怖くないと言うことよ
竹を割ったときのようなスカッとした男になれよ。
そうすりゃあ竹から生まれたかぐや姫と結婚できるよ
しかし地球温暖化で雪も降らなくなった環境や人間同士の争いがいやになって
かぐや姫は月に帰ったのよ
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物知り博士のじいさんが冬の凍りつくような寒い日に便所で倒れた
必死になって「じいさん、じいさん目をさましんさい」
ばあさんが体を揺さぶったが、じいさんは満足した顔をしていびきをかいて寝ている
いびきの音は「ばあさんかそばにいるから満足まんぞく」と言っているように聞こえた
三日後に呼吸が停止になり、それっきりいびきをかかなくなった
色々教えてくれたじいちゃんは110歳の天寿を全うした
じいちゃんの遺骨をつまんだのは竹の箸だった。
取り残されたばあさんは骨壷を胸に抱き一週間泣きつづけた。
おばあさんは愛嬌があり裁縫がとくいで近所の子供達の破れたズボンの膝を
いつも繕っていた。「ズボンの修理やさん」と近所の子供達の人気者だった。
そんな噂をきいて、「昨日買ったばかりで帰ったら怒られるけえ、
ばあちやんなんとかしてくれ」
泣きべそかきながら遠くからもわんぱくぼうずがいっぱい来た
「ヨシヤこうたときよりももっとええもんにしてやるけえ」花がらの模様がついた布きれを
破れた膝にあてて直す事が日課だった
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木枯らしが吹きだした寒い秋に
「忘年会するけえばあちゃん歌の練習をせにやぁ」
「そんな暇あるもんか、今じいちゃんがそこに来て待つとるよ」
どこを見てもだれにもいなかった・・・・・
死んだじいちゃんの心とばあちゃんの心は見えない糸でむすばれているのよ
「それが夫婦と言うもんよ」と独り言を言っている
ばあちゃんが「わしがしんだら、奥の部屋のタンスの一番下の引き出しの服をわしにきかせてくれ」
と奥の部屋に行って休んだ
次の朝、起きてこないので行ってみたら布団の中で
仏様のような顔して呼吸していなかった。本当に死んだのだ
慌てて引き出しを開いてみたら自分で縫った白い服があった
「死んでまで人に迷惑かけたくないよ」とつぶやいてわけが分かった
白衣をきかせたら大柄なばあちゃんの寸法にぴったりだ。
白いたびまでそろえていた
「じいちゃん、ばあちゃんいままでありがとう」と合掌した
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☆
このまえの話はヨウわからんのう
◎
10月になって全額介護保険料を支払うようになってから
グループホームが竹の子のように乱立しているが大丈夫かのう
いままでは社会福祉法人か地方公共団体だけが開設許可されていたが規制緩和で
建設・証券業界他どの業界も開設できるようになったんヨ
小額の資金で空家を改造したグループホーム施設も含まれるがのう
建物の建設は簡単じゃが人の介護はそう簡単にはできんと思うが・・・
それに有料老人ホームとかケアハウスとかグループホームとか
老健とか特養とか養護とか軽費老人ホームとか
何種類もあるけえようわからんのう
わからんじゃろうてワシも分からんけえ
同じビルに複数の介護業界があるが
介護保険の適用の施設か否か明確な表示をせにゃあ素人にはわからんのう
知らんよ、ワシが決めたんじゃあないけえ、どの施設も中身は同じようなもので
事業所名を変えるだけでええんじゃあろうよ。
今の世の中は書類だけで愛情の審査はないのよ
権力争いか縄張り争いぐらいで政治家の綱引きよ、とばちりを受けたのが介護保険よ
入居する時、何百万円いる施設といらない施設があると聞いたが
区役所に聞いたらわかるよ
終身保障と書いてあるが契約と保険請求が重複せんのんかいのう
知らんよ法律、法律ばっかり言うて理論(書類)が通り、実態の心が通らんのが今の政治よ
自然の流れが恐ろしいのを忘れているのよ
口癖のように「見直します」とよう言うがのう
安心して入居できる施設の見分け方はないんか
終身保障かどうか例えば廊下幅を見ればわかるよ
介護を中心とした施設はのう
介護の幅が十分とれていないといけないと言うことよ
介護の幅とは施設設備・心・処遇のことか
そうよ、施設設備では廊下幅が狭いと
歩行器と車椅子・車椅子と車椅子等のすれ違いもできないしこれは最悪よ
勿論回転ができないと便所も風呂も車椅子で行けないけえ
最近の車椅子は小回りがきくらしいがのう
食堂も段差があってはいけないし手摺のない廊下や外階段があってはいけない
まして二階に居室があるなんてまず考えられないよ。
エレべーターがついとれば別じゃが
段差が歩行困難者にとって魔物よすべって転倒して骨折するからのう
「行きはよいよい帰りは怖い」本人しか分からんがのう
そんな施設は福祉の心がないし人情のかけらもないのう、なんとかせんかい
知らんよ、基本的な事など考えておらんけえ、機能より装飾のことばかり考えておるけえ
すり足歩行でその上足のしんせんがひどく思うままに動けない体なのに
床に赤いジュウタンなんかひいとるけぇ車椅子の自走のとき抵抗が強く
邪魔になってしょうがないよ
そんなら体に優しい廊下をつくらんかい
知らんよ、先を考えずその場しのぎがうまいけえのう
車椅子が楽に運転でき転んでも骨折を防げるクッション廊下ならええがのう
もとにかえるが「同じビルに複数の事業所が複合しとる」とはなんのことや
同一ビルで終身保障といいながら介護保険を使うことよ
集合施設といっているが雑居ビルのほうがあてはまっているのじゃないか
そりゃあそうじゃ、営利を優先して事業者同士間でサービスの向上を図るために
お互いに競争させて採算がとれなくなったらいとも簡単に廃業するのよ
福祉は蚊帳の外になって減反制度と同じようになり、それ、米を作れと言っても
竹の根がはえて田んぼにならんのよ、困ろうてぇ、その場しのぎの政治はやめんかいのう
無責任じゃのう、なんとかならんかい
しょうがないよ法律で決まっとるけえ、「福祉は物ではなく心じゃ」と言うとろうが
手足が不自由になったら、頼るところはお前しかおらんけえ、たのむぜ
隣のじいちゃんとばあちゃんの心遣いが介護の生きかたの見本よ
営利目的の者は福祉に参加せんでもええのよ、そんなに長生きしたくないわい
せっかく生まれてきたのだから財産残すより社会に貢献し
せめて後世に将来生活の知恵ぐらい、教えて死なにゃあのう
歴史は繰り返されると言われているがあたらにゃあええがのう
アフガニスタンのテレビニュースを見ていると
戦車のそばに馬かロバがおるが
昔の日本によう似とるのお
武器の大差があるのに難しいかのう
やっぱり人間との戦いは武器でなく心かのう
しかし難民のことを考えんかい
寒い中暖もとれない明日の飯の保障もない生活を強いられて
可愛そうに、なんとか争いがなくならないもんか
じいちゃんがよう言いよった。
好きで生まれてきたわけではないが
生がある限り人間として力一杯自然のように生きろと
わしがわしがの争いのないことよ
社会が生きていると言うことは
人と人とのつながりで互いに協力して存在して初めて生きれるよ
もうすぐクリスマスじゃのう
♪♪♪♪♪♪♪♪ジングルベージングルベー鈴が鳴る♪♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪♪リンリンリンベルが鳴る♪♪♪♪♪♪♪♪
そろそろ煙突掃除せにゃあサンタクロースが家の中まで来れないぞ
プレゼントがもらえなかったら正月がこんどぉ
はよう五右衛門風呂をたいて入って煙突掃除せにゃあ
風呂がわいたのではよう入りんさい
一番風呂は上のほうだけ熱いが下は水じゃあけえ
よう混ぜて入りんさいヨ、回りの鉄も熱いけえ気をつけんさいよ
おお熱い、手をつけたら煮え湯じゃあないか
水を一杯入れたらちょうどいい湯加減になったので
入ろうとしたら「釜の底はやけどするぐらい熱いけえ」
わかっとるよ
下駄を履いて入たら底は水だ、あわててまぜたら全部水になった
「寒い風邪をひくよ早くたいてよ」おふくろに頼んだ
「それみんさい言うたでしょうが」
震える体を丸くして水面に浮かばせていたら上のほうから熱くなってきた
身にしみて対流を教えられたが、性懲りもなく同じ失敗を繰り替えしていたら
エライ人間は一度失敗したら二度と失敗はせんよ、三回も同じ失敗を繰り返すのは馬鹿よ
たきぐちに向かって息を切らしながら火吹きで吹いている音が聞こえた
人間社会も同じことじゃけえ、よう皆の意見を聞きんさいよ
小言とを聞いている場合じゃあない、サンタが真夜中に来るのに
はよう準備していっぱいプレゼントをもらわにゃあ、ろくにすらずにとんで出た
自分の靴下はあまりにも小さいので、おやじの靴下を二束枕もとに置いて寝た
朝起きてびっくりした
二束の靴下にも入らない大きな自動車の音がするオモチャのコマがあった
よかった、よかった嬉しかった不思議なのは
どうしてちいちゃな煙突からこんな大きなコマが入ったのか?
屁理屈はどうでもええ
サンタさんありがとう、もう少ししたら正月でお年玉がもらえるけぇ
おかしなことよのう