☆☆子孫を意識するなら無残な人工被害はきっとさけられる☆☆☆

本当は言いたくなかった
1945年8月6日広島に原子爆弾が投下され、がれき化した市街地を
ハエのウジが制覇した。そして8月15日終戦になった
当時、段原地区の配給所での、できごとである。

黒いむすびと白いむすびが目の前にある
手を伸ばしのりまきおにぎりを食べようとすると白いむすびに変身した
手を引っ込めるとまた黒いむすびになる
自分の目をうたがった。目の錯覚かもう一度半信半疑でためしてみた
やっぱり手を引っ込めるとまた黒いむすびになる
このがれき化した町で唯一元気なハエがいっばいたかって
黒くなっていたのだ
気持ちが悪く食べる気もしなかった。しかし
疲れきった腹の虫は黙っていない
贅沢はいえないムスビの表面をむしりとるとウメボシだけが残った
ガツガツたべたウメボシがすっぱかったのがうまかった

今の世の中は信じられないことばかりがおきとるので
平和問題などだいそれたことなどは考えてもいないが
ワシも年じゃしどうしてもあの日のことを言い残したい
いままでかたい貝のように口をとざしていたが
原爆とはどんなものだったかを後世の人に知って欲しいと
あのすさましい光景をみて、人と人の争いは一刻でもするべきではない
この地球に生まれたのだから互いに協力し仲良く生きていくしかない
憎しみが倍になり又倍になり開発されたのが55年前の原爆ヨ
今の時代はそんな生易しいもんではないヨ
あやしげな世界情勢になっている昨今歴史は繰り返す、あたらにゃあええが。
人間は死んでもええが地球を壊したら何もならない。

さて、言いたくない話だが「わしは原爆で足を負傷して歩けないから娘を捜してくれ」
親友からたのまれ急いで山口県から広島に車で向かった。
己斐に着いた。
何もない「なんじやぁこれは」あちらこちらに煙がたちこめている

いまにも転びそうな足どりで手をつないでいる老夫婦が目の前を通り過ぎようとした
「横川はどこでしょうか」と声をかけたら  
後ろにふりかえったおばあさんは全身の皮膚がただれて服を着ているのかどうかも 
判断ができない身なりであった 
その後おじいさんがふりむいた  
なんと乳までぶらさかった目球を左手ので支えているじやぁないかの 
なんて惨い信じられない。
「横川はアッチよ」と言っておばあさんの手をにぎりしめこおもり傘を杖代わりにして
老夫婦は過ぎ去った。
後ろ姿はだれの助けもいらん、あてもない町を行ったり来たり徘徊しているようだった
しかし、しっかりと手をつなぎあった老夫婦の姿は愛と死と生き延びたい思いが交叉
しているように見えた。
なんと惨いじゃあないか早く目を治す方法は・・・・
同僚の目を見詰めるだけで言葉もでなかった。
同僚はうなずくだけである

目的の横川に徒歩で向かう
足の踏み場がないのか道路の両脇に寄せられて悪臭が漂っている
屍の間をタオルで鼻をおさえながら進んでいくと
路頭に迷い母親を捜してる幼い兄弟にあう
皮膚はまるでレースのカーテンのようにたれ下がり
宙をさまよいながら亡霊のように無言で板切れをもち、何処を見いてるのか分からない白い目だった
姉は消し炭で書いたらしく「私達の母を知りませんか」板切れをもっている
弟の板切れには「スカートをください」と書いてある
やけどで痛くてズボンがはけんのじゃろう
二人は無言で通り過ぎていく、頭髪がない兄弟は喋ることができなかったのだ
唖然としてものも言えない
おい、なんとか捜してやらんかい。スカートはないんか。
同僚はうなずくだけである

三篠橋にいったら欄干に血のりがべたりとついている爆風で叩きつけられたのだろう
可愛そうに何人の血のりだろうか残酷だ
オイ冥福を祈ろうと言ったが
同僚はうなずくだけである

相生橋についたビルは破壊したのに不思議に橋は崩れていなかった
川のほうから声がするなんと丸太にしがみつき力果てたのか
頭と足は水のなかで背中だけが見えるワラをつかむように皆死んでいる
何人いるかわからない
みんな体中が熱く体を冷やすため水をもとめて川にとびこんだらしい
なんと悲惨な光景だ、信じられない
こんなことは二度と起ってはいけない
おい大丈夫か、放心状態の同僚は手をあわせ震えている
同僚はうなずくだけである

相生橋を渡ったとたん一段と悪臭がつよくなる
何処に行っても死体は通行のじゃまになるのですみにおかれている
山積みにされた死体の中に白い包帯につつまれ目だけが露出している
そのなかに目を白黒させている兵隊がいた
どうしたんやぁまだ生きとるじゃあないかぁ
死を覚悟していだようすで、助けようとしたら「もうええ、わしより元気な人を助けてやれ」
と訴えているように目で合図していた
そばにいる松葉杖に支えられた女の子の左足に巻かれた
ホウタイの下からウジが出たり隠れたりしてウヨウヨしていた
女の子は痛みなど訴えることはなく山積みされた父親の側にずうっといたかったのだ
だまって走って通りすぎるしか方法がなかった
やるせない気持ちになり「なんとかならんかい」、とうとう同僚を怒る
同僚はうなずくだけである

なんじゃもう考えるどころかところてんのように無意識に押されて進んでいるうちに
八丁堀付近まできた
馬と大八車がそのままひっくりかえりたずなをひいていた男は上向きで真っ黒こげになり
うまの四肢はピーンと伸ばしシンボルまで棒のよう立って死んでいた
すぐにひっくり返したらもとの姿なり今にも歩きだしそうな格好であった
ビルのがれきからは水道水が破裂して噴水のように湧き出す水は血と混じり川のように流れ
赤水を体にかけ、傷を癒している人がたくさんいた
まだ熱い瓦礫の山の中をこっそり覗くと何人も死んでいる
これが生き地獄かなんとかしてあげたい、同情の言葉もないのう、
同僚はうなずくだけである

常磐橋をわたり幟町の
小学校につき校庭に子供を捜しにいくと
ありやぁみんな大きな腹をして死んでいる
なんで大きな腹なのか・・・こんな小さな子供まで
なんでこんな所に来たのか、まるで地獄の社会に来たようだ
これは神様のいたずらだ、信じがたい
親は子供達を捜すうちに死んでいく
子供達は死んだことが分からず捜し続ける
こんな世界があるもんかい
ええい今までのことは夢であってほしい。現実は見たくない
もうこの場を逃げだしたい、しかし少しの水でもさしあげたい
後ろ髪を強く引っ張られるおもいだ
同僚はうなずくだけである

なんとか役にたちたいと、飯も食べず無言で兵服を着た人たちが一生懸命
ひとり一人に合掌して丁寧に移動させていたのが、神様に見えた
それにしても亡くなった人の姿は全員逃げる格好であったのが不思議であった

ええも悪いもないケンカ両成敗
せっかくこの世に生まれた命だ仲良く生きんかい
と、じいちゃんが言ってたよ

おかしなことよのう

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